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【事件・記事・子ども】東京都青少年健全育成条例改正案 可決について―マンガと表現の自由と人身取引―
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  12月15日に東京都議会が青少年健全育成条例の改正案を賛成多数で可決したことは、多くのメディアで取り上げられています。わいせつな出版物を18歳未満の子どもへ販売することを規制した、すでに存在する条例の改正案で、性犯罪を不当に賛美する漫画やアニメを対象に加えることで規制の強化を図っています。

  「子どもへの有害な出版物を他と区別すること」と、「表現の自由」の間で、どこに線を引くべきか、という議論です。ポラリスプロジェクトは人身取引という視点から、子どもを対象とした性的搾取を無くすことを活動の一部にしていますが、その意味では今回の規制強化は当然のことで、遅すぎたくらいです。この規制によって、児童ポルノ(子どもからの性的搾取)の氾濫を抑えたり、児童ポルノに対する需要を軽減したり、その潜在的加害者を減らしたり、といった効果が少しでも期待できると考えています。私たちの活動から見えてくることを具体例として挙げると、インターネットや携帯サイトを通じて広がっている児童ポルノ被害は、加害者も18歳未満だったり、10代の頃から規制対象となるような図書・漫画に触れ、大人になって子どもからの性的搾取という犯罪――つまり人身取引――に手を染めてしまう、などという状況です。そしてこのような事例は少なくありません。

  表現の自由や、創作の自由を叫ぶ声が聞かれますが、そこで守ろうとしている基本的人権の裏で、子どもへの人権侵害が起こっているわけですから、どこかに明確な線を引かなければならない。どこに引かれるべきか、という議論は続きますが、少なくとも今回の規制強化が人身取引をなくし、子どもを大切にする社会づくりの一助となることを期待します。
(2010年12月16日 文責:プログラムオフィサー 船戸 義和)

下記に関連する記事をご紹介します。長いですが、興味のある方はご参照ください。
 
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都青少年条例 露骨な性描写の規制は当然だ(12月15日付・読売社説)

  過激な性描写のある漫画が、巷(ちまた)の書店やコンビニの棚に並んでいる。
 これらの18歳未満への販売規制を強化する東京都青少年健全育成条例改正案が、15日の都議会本会議で可決され、成立する見通しだ。
 現行条例は、「著しく性的感情を刺激」する作品は指定図書として成人コーナーなどに分けて売ることを義務づけている。指定に当たっては性器の描写の明確さなどが判断基準となっている。
 そのため、例えば果物を性器に見立てるなどして、小学生の性行為を描写したような漫画は成人図書に指定されていない。
 条例改正は、こうした規制から漏れた作品についても成人指定が出来るように、基準を改めようというものだ。
 青少年の健全育成の観点に立てば、規制強化は当然だろう。
 当初の改正案は、18歳未満の少年少女の性行為を肯定的に描いたものなどを新たな規制対象として加えるというものだった。
 しかし、民主党などが「対象があいまい」との理由で反対し、6月の議会で否決された。
 都が手直しした上で議会に再提出した今回の改正案は、強姦(ごうかん)など法に触れる性行為を「著しく不当に賛美し又(また)は誇張する」作品は成人指定できるとしている。このため民主党は賛成に転じた。
 漫画家や出版界には反対の声が根強い。「成人女性の性描写も含まれるなど、当初案よりもさらに規制の対象が広がった」と反発を強めている。
 芸術的評価の分かれる作品が一方的に成人指定されかねない、と懸念する声も上がっている。条例案には「慎重な運用」を求める付帯決議が加えられた。条文を拡大解釈して乱用するようなことはあってはなるまい。
 都の成人図書の指定は、PTAの代表や出版・報道関係者、都議らで構成する審議会で行われている。今後、審議会にかかる作品の幅が広がり、新たな判断を迫られるケースも出てくるだろう。
 より多様な意見を議論に反映させるため、漫画家を委員に加えることなども検討してはどうか。
 青少年に対する漫画の販売規制は自治体によって基準が異なり、東京都の議論だけで問題が解決するわけではない。
 どんなに出版物の販売が規制されても、ネット上には過激な性描写の画像が氾濫している。
 家庭や地域、各業界ぐるみで子どもを守るための取り組みを進めて行くことが肝要だ。
 
読売新聞 2010年12月15日01時21分
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20101214-OYT1T01203.htm?from=os4


【主張】都性描写規制条例 子供を守る当然の改正だ(産経ニュース)

 子供の性行為などを描いた漫画の18歳未満への販売・閲覧規制の強化を盛り込んだ東京都の「改正青少年健全育成条例」が都議会本会議で賛成多数で可決、成立した。
 改正は青少年保護を目的とし、少女強姦(ごうかん)など社会規範に著しく反した漫画を「子供に見せない」という内容である。当然の改正であり、「表現の自由」を妨げるものではない。
 過激な性行為や暴力を含む図書を有害図書に指定し、18歳未満への販売や閲覧を規制する条例は大半の都道府県が制定している。
 出版社や書店側が「成人向け」などと表示し、販売コーナーを分ける自主規制も進んではきた。しかし、最近は教師と生徒の性行為や強姦、近親相姦を「恋愛」などと称して肯定的に描く漫画が目立つ。中高校生らに人気の漫画雑誌などに掲載され、一般書と同じ棚で買えることに問題がある。
 都の現行条例でも漫画は規制対象であり、指定有害図書の多くは漫画だ。ただ、性器や性行為を露骨に描いていなければ指定から漏れているのが現状だ。改正案は3月議会に提出されたが、一部の漫画家や出版業界などが「創作活動が萎縮する」などと強く反対し、先送りされてきた。
 規制対象について、改正条例では、強姦など法に触れる性行為や近親相姦を不当に賛美・誇張して描いた漫画やアニメ-と明確に指定した。「慎重に運用する」との付帯決議もついている。
 漫画家や出版社はなお反対しているが、改正は「18歳未満に見せない」との趣旨だ。石原慎太郎都知事が「子供の目に触れさせたくないということ」「書きたければ書けばいい」と指摘するように、創作を妨げるものではない。「表現の自由」を人質にとるような反対は、議論のすり替えと言わざるを得ない。
 出版社10社は、石原知事が実行委員長を務める来春の「東京国際アニメフェア」に参加拒否の声明を出した。改正の趣旨を見誤ったものではないか。日本の漫画は世界でも人気だ。それだけに、社会規範に反した漫画を放置することは、かえって表現の自由を妨げることにならないか。
 漫画以外でもインターネットを含めて子供を性的対象とする映像が氾濫している。子供たちの心身を守るためにも、公共の利益を踏まえた取り組みが必要だ。
 
産経ニュース 2010.12.16 03:20
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/101216/lcl1012160321001-n1.htm


漫画の性描写 規制は臆病なほど慎重に(西日本新聞 社説)

 過激な性描写のある漫画やアニメの販売を規制する東京都の青少年健全育成条例改正案が都議会で可決され、成立した。来年7月までに施行される。
 ちまたに性情報があふれ、子どもたちがそれを見たり、読んだりできる現状を苦々しく思っている人は多いだろう。
 確かに、子どもに見せたくない過激な性行為を描写した作品が、コンビニなどで青少年が簡単に買えるという環境は、決して好ましいものではない。
 だからといって、それを規制するルールの強化が直ちに必要というのでは、短絡的すぎるのではないか。安易な規制強化は、憲法で保障された「表現の自由」を危うくする恐れがある。
 漫画家や出版業界、日本弁護士連合会などが今回の条例改正に強く反対しているのも、行政の恣意(しい)的な規制や規制対象の拡大解釈によって、表現や出版の自由が侵される懸念がつきまとうからだ。
 漫画家たちも「行政の勝手な判断で取り締まれる余地が広がり、創作活動を萎縮させる」と心配する。
 漫画やアニメは日本が世界に誇れる文化だ。それを支える作家たちの自由な発想や創造力を、萎縮させるようなことがあってはなるまい。
 「あしたのジョー」などの作品で知られる漫画家ちばてつやさんは「意識のどこかに規制が働くような環境では、作品がどんどん死んでしまう」と、規制が及ぼす深刻な影響を指摘する。
 石原慎太郎都知事も「表現者」としては同じ気持ちなのだろうが、「児童ポルノを見過ごすのは犯罪に加担するに等しい」として条例改正にこだわった。
 その言い分は分からぬではない。が、過度な性描写はいま野放しにされているわけではない。子どもの性的感情を刺激したり、残虐性を助長したり、自殺や犯罪を誘発する作品は、現行の条例でとうに販売を制限されている。
 今回の改正はそれでは不十分として、強姦(ごうかん)など刑法に触れる性行為や近親間の性行為を「不当に賛美したり、誇張して描いている」漫画やアニメを販売規制の対象として具体的に明記した。
 しかし、賛美や誇張が不当かどうか、誰がどんな基準で決めるのか。明確な線を引くのは不可能だろう。そこには、どうしても恣意的な判断が入り込む。
 その意味で、今回の改正は条例に行政が介入する余地を広げるためのものだったのではないか。いったん否決された改正案を再提出した石原知事の執念に、そんな不信や疑念もつきまとう。
 そこでは、行政が条例で表現行為を規制していいのかという本質的な問題の議論が欠落していたのではないか。
 「表現の自由」にかかわる規制だ。運用にあたっては、臆病なほどの慎重さを求めたい。公権力の恣意的な規制が、適用範囲をなし崩し的に広げ、言論や表現活動を封じていった歴史の苦い教訓を忘れてはなるまい。
 
2010/12/16付 西日本新聞朝刊 2010年12月16日 10:49
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/215920
Last Updated on Friday, 17 December 2010 13:56
 
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