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12月8日付日本経済新聞電子版に、最近の子どもをねらった性的搾取事件の傾向と、それら事件に使われることの多いインターネットや携帯サイトの現状・取り組みについての特集記事が掲載されました。大きな市場価値を持つ「出会い系・非出会い系」サイトは多くの健全な利用者がいる一方で、その陰に隠れた悪意のある利用者が子どもをおびき出すための道具として使い、子どもの性的搾取事件の温床となっています。長い記事ですが、あまり知られていなかった現在の日本の状況を垣間見ることのできる内容です。
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総務省などが入居する東京・霞が関の中央合同庁舎第2号館。今年8月31日、ここに通信事業者やネット企業など10社以上が呼ばれた。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルなど携帯電話5社に加え、ディー・エヌ・エー(DeNA)、グリー、ミクシィといった大手SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の顔も並ぶ。
だが、一行が向かった先は、通信を司る総務省ではなく、全国の警察を指揮監督する警察庁。出迎えたのは情報技術犯罪対策課の面々だ。「今年上半期の状況について説明を差し上げたい」。配布された資料は、そこに呼ばれた誰もが耳の痛い事実を突きつけていた。
国内でそれぞれ2000万人以上もの会員を集めたSNS大手3社。なかでもDeNAの「モバゲータウン」と、グリーの「GREE」は、莫大な課金収入が見込めるソーシャルゲームを武器に破格の成長を遂げている。潤沢な資金を手に海外企業のM&A(企業の合併・買収)も手がけ始め、停滞する日本経済の星として一躍、脚光を浴びている。ところが警察の見る目は、少々違う。
高校生になりすまし「コインをあげるよ」と近づく
今年6月、岡山県津山市の元市立中学校教諭(49)に懲役3年、執行猶予4年の刑が言い渡された。罪状は児童買春・児童ポルノ禁止法違反や岡山県青少年健全育成条例違反、脅迫などで、被害者は岡山、兵庫、岩手県内に住む13~16歳の女子中高校生4人。その舞台は、携帯電話向けのSNSだった。
手口はこうだ。卒業アルバムにある男子生徒の写真をSNSのプロフィルに貼り付け、年齢を詐称して高校生になりすます。ソーシャルゲームなどを通じて女子中高生に近づき、ゲームで使用できる「コイン(仮想通貨)をあげる」といった甘言で釣って、見返りに裸の写真を送らせる。
加えて、ある女子中学生には「写真や名前をネットでばらまくよ」と脅し、待ち合わせの約束を取り付けた。元教諭は男子生徒の父親を装って「息子はホテルで休んでいる」と偽り、ホテルの部屋に連れ込んで、さらにわいせつな写真を撮った。似たような手口を繰り返していた元教諭の携帯電話には、女子中高生数十人分のわいせつな写真が残っていたという。
こうした事件の急増に、警察は神経をとがらせている。今年8月には、2010年上半期に起きた全国の児童被害の事件をまとめ、公表。新聞各紙は一斉に「非出会い系サイト 被害児童急増」「児童被害の事件 交流サイト増 出会い系減」といった見出しを付けて報じた。
SNS御一行を呼んだ「説明会」が開催されたのは、その数週間後。やり玉にあげられた「非出会い系サイト」とはつまり、モバゲー、GREE、mixiといったSNSや、楽天の「前略プロフィール」といった自己紹介サイトなどを指す。
出会い系サイトの被害児童数は141人、非出会い系サイトは601人
警察庁によると、10年上半期、出会い系サイトに関係した事件の検挙件数は、前年同期比16.5%減の538件、被害児童数は同46.8%減の141人と減少の傾向にある。一方、非出会い系サイトに関係した検挙件数は、同15.7%増の730件、被害児童数は同10.3%増の601人と増加傾向で、実数でも出会い系サイトを上回っている。
事件の大半は18歳未満の児童を対象とした性犯罪。非出会い系サイトを通じて被害に遭った601人のうちでは、18歳未満との淫行・わいせつ行為などを禁じる青少年保護育成条例違反の被害が378人ともっとも多く、次いで児童買春が107 人、児童ポルノが83人と続く。なかには強盗や放火、誘拐といった重要犯罪の被害も混じる。こうした犯罪の温床として、大手SNSは出会い系サイトと同列に語られる存在となってしまった。
警察は非出会い系サイトの内訳を公表していない。だが、内部では事業者別の検挙件数や被害児童数も把握しており、多くの利用者を抱えるSNSは当然、その上位に食い込んでいる。大手3サイトであるモバゲー、GREE、mixiの10年上半期の合計被害児童数は、非出会い系サイトの4割、240人超にのぼることが取材で分かった。この数は、出会い系サイト全体の1.7倍に相当する。
DeNA、グリー、ミクシィの3社はいずれも、「異性との出会いを目的とする行為を禁止する」と利用規約に明示し、成年、児童に関係なく、出会い目的の行為を許さない姿勢をとっている。にもかかわらず、非出会い系サイトに関係する事件が増え、逆に出会い系サイトは沈静化する方向にあるという矛盾。その理由は、「規制」を抜きにして語れない。
出会い系、非出会い系を分かつもの
「援助交際」の社会問題化を機に、いわゆる「出会い系サイト規制法」が制定されたのは03年のこと。同法は、出会い系サイトを「面識のない異性との交際希望者の情報を電子掲示板に掲載して公衆が閲覧できるようにし、かつ、その情報を閲覧した者が掲載した者と電子メールなどを利用して相互に連絡できるようにするサービス」と定義している。
簡単にいえば、児童、成年に関係なく「異性との出会いを容認している」サイトが、規制の対象となる。
出会い系サイト規制法は、18歳未満の児童が出会い系サイトを利用することを認めておらず、性交目的の書き込み、あるいは金品を対償に交際を誘う書き込み自体を処罰(禁止誘引行為、100万円以下の罰金)の対象としている。これにより、「エッチできるJK(女子高生を指す隠語)希望」、「16♀(女子)だけど、3でデートしてもいいよ」といった書き込みは違法、検挙対象となった。
08年の改正では、事業者の義務が大幅に強化された。禁止されている書き込みを削除することなどに加え、事業にあたって公安委員会への届け出が義務となり、違反すれば刑事罰が科せられるようになった。さらに09年2月からは、利用者に対し身分証やクレジットカードなどで18歳以上であることを確認する作業が、事業者に義務付けられた。これが利いた。
年齢確認で多大なコストと作業を強いられる事業者は、身分確認を嫌った利用者減も手伝って、相次ぎ看板を下ろした。両親など他人の身分証を使ってまで出会い系サイトを利用する児童も、そうはいない。この状況でなお、児童を狙った書き込みなどをする輩がいても、禁止誘引行為で取り締まり、未然に被害を防ぐことができる。
実際、10年上半期の検挙件数538件をみると、出会い系サイト規制法違反が全体の38.5%、207件と最も多く、うち書き込みなどの禁止誘引行為が205件に達している。結果、06年に年間1153人にのぼった出会い系サイト関連の被害児童数は09年に年間453人まで減少し、10年上半期は141人にまで減った。
警察を管理する公安委員会は事業者に指示・命令を下すことができ、従わない場合も処罰の対象となる。改正で、出会い系サイトをほぼ監督下に置いた警察。半面、児童を狙う不届き者が河岸を変え、横行し始めたのが、規制の及ばない非出会い系サイト、とりわけ利用者が多いSNSだった。
SNS各社とも、異性との交際目的の行為は排除
SNS各社は「出会い系サイトではない」という姿勢を明確にし、警察も「SNSは出会い系サイトには当たらない」としてきた。であるがゆえに規制の対象とはならず、児童も自由に出入りできるサービスとなっている。
ただ、SNSでは「コミュニティー」や「サークル」といった掲示板のような機能と、「ミニメール」や「メッセージ」などと呼ばれるユーザー同士がサイト内で個別にやり取りできる機能が重要な要素となっている。出会い系サイトを追われた悪意のある大人が、これらの機能を悪用するのは自明だった。
「大人が検索をかければ、簡単に児童と連絡が取れてしまうことが問題。街中で子どもに片っ端から声をかけていたら明らかに怪しい。けれど、SNSなどでは誰にも知られずにそれができてしまっていた。被害児童側も、たとえば釣りゲームをしているつもりが、釣られているとは思ってもみない。そこに危険性がある」
ネット上の犯罪に目を光らせる警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課の米田茂雄理事官は、こう指摘する。ゲームなど趣味のコミュニティーをつぶさに巡回して18歳未満の児童を探し出しては、親切なふりなどをして近づき、ミニメールで巧みに外の世界へと誘い出す。SNSは「出会い」と銘打っていないだけに児童の警戒心も弱く、だまされてしまうケースが多いという。
出会い系サイトの健全化が進み、逆に健全であるはずの非出会い系サイトが性犯罪の温床となりつつある――。そうした状況に、警察のいら立ちは募るばかりだ。出会い系サイト規制法の対象か否かを最終的に判断するのは裁判所だが、立件するか否かを決めるのは警察。その権限を懐にちらつかせながら、警察はSNS各社に対策を迫ってきた。
むろん、SNS各社も犯罪は微塵(みじん)にも望んでいない。青少年が安全に安心して利用できるよう、あらゆる対策を講じてきた。
「ゾーニング」「パトロール」の草分け、DeNA
何より、規制の対象となっては死活問題に発展しかねない。未成年ユーザーのすべてを失うのはもちろん、膨大な年齢確認の作業を強いられることになる。それも避けたい各社は、児童、成年を問わず、出会いを求める行為の「摘発」に肝胆を砕いてきた。特に、モバゲーのDeNAは、早期から出会い行為の取り締まりに力を入れている。
モバゲーは、出会いを誘うような文言の投稿はもちろん、サイトで知り合った者同士がサイト外で会うことや、ミニメールで個人情報を交換することも規約で禁止している。さらに、プロフィル、日記、掲示板、そしてミニメールと、1日あたり1000万以上もの全投稿から、出会いを誘う文言や個人情報など規約違反が疑われる投稿を抽出するシステムで監視。電話番号やメールアドレスなど明らかに規約に違反している投稿は、自動的にブロックしている。
加えて、サイト内を監視するパトロール部隊が24時間体制でフォロー。08年4月には、東京に加えて新潟に新たな監視センターを設け、合計400人体制とした。スタッフは巡回や通報、監視システムで集めたグレーな投稿を目視でチェックし、異性との出会い目的の行為だと判断すれば削除したうえで、警告なり強制退会なりの処分をくだすという地道な作業を続けている。
出会いの摘発と同時に、児童と大人の「分離」も進めた。07年12月から、18歳未満がミニメールを送受信できる範囲と、プロフィルなどから友達検索をしたり、されたりする範囲を「本人の年齢前後2歳まで」と制限した。例えば20歳以上が17歳にミニメールを送信したり、検索で見つけたりすることはできない。いわゆる「ゾーニング」の走りである。
被害児童の99%は携帯フィルタリングに未加入
これに、ミクシィとグリーの2社も追随。サイト内のパトロール体制を順次、強化し、出会い目的の行為の一掃を進めている。18歳未満と成年のコミュニケーションや検索を遮断するゾーニングも、ミクシィは08年12月から、グリーは09年8月から実施しており、それぞれ一定の成果を上げているとする。
だが、警察は「対策が十分ではない」とし、今年に入ってからも監視体制の拡充やゾーニングの強化など自主的な取り組みを強化するようSNS各社に要請し続けている。前出の警察庁の米田理事官は、こう指摘する。
「被疑者の半分くらいはプロフィルを詐称し、ゾーニングを乗り越えるなどして児童に近づいている。被害児童の方も、約3分の2は親名義の携帯電話を利用しており、99%は携帯フィルタリングに加入していない。18歳未満かどうかを機械的に判別するのが難しい状況にある」
指摘の通り、SNSのプロフィルは現状、年齢確認に身分証などを使う出会い系と違い、自己申告。いくらゾーニング対策で児童と大人を遮断したとしても、悪意ある人間が中高生の年齢を入力すれば、ゾーニングは無用の長物と化す。青少年の健全な育成をはばむ有害サイトへのアクセスを遮断する「携帯電話フィルタリング」の効果も、はかばかしくない。
携帯フィルタリングは、09年4月施行の青少年インターネット環境整備法で、18歳未満が携帯電話を利用する場合は原則適用となった。が、大手3社はモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)が認定する「健全サイト」。フィルタリングの対象外のため、フィルタリング加入者であっても自由に出入りできる。
ただし大手3社は、フィルタリングの加入者からアクセスがあった場合、自己申告の年齢が18歳以上でもゾーニングの対象として切り分ける対策をとっている。ところが、携帯フィルタリング自体、普及が進んでいない。
原則適用といっても罰則はなく、加入するか否かは保護者の判断に委ねられているのが実情だ。10年上半期に検挙した犯罪の調査結果によると、被害児童の 99.5%はフィルタリングに未加入であり、これら被害児童をフィルタリングによる強制ゾーニングは救えなかったということになる。
増え続ける18歳未満の利用者
警察庁はこうした調査結果を今年10月末に公表した。そのなかには、「EMA認定サイトに起因する被害発生状況」というデータもある。10年上半期に検挙した非出会い系サイトに起因する児童被害の犯罪、730件のうち、50.3%がEMAの認定する健全サイトで起きていたという、皮肉な結果を示す。
健全と謳いながら、実態はそうではない――。そんなメッセージを発信する警察は、SNSに対する圧力を強めているかのように見える。
SNSにとっては、児童被害の温床と報じられ、「出会い」のイメージがつきまとうという憂慮すべき事態。確かなのは、児童がいなければ、犯罪は確実に減るということ。しかし18歳未満といえども、SNSにとってはサイトを支える大事な「お客さま」。出会い系サイトのようにサイトから児童を閉め出すことは、できない。ここに、SNSが抱えるジレンマがある。
DeNA、グリーともに18歳未満のユーザー比率は下がっているものの、母数が肥大化している分、実数も膨らんでいる。モバゲーが会員数1000万人を達成した08年4月、18歳未満の割合は26%で269万人いた。10 年9月時点でその比率は15%まで下がっているが、実数は324万人と55万人増えている。
GREEも1000万人を突破した09年4月時点で18%だった未成年の比率は10年9月時点で14%まで減ったが、実数は130万人以上も増えて314万人となった。もともと18歳未満の利用を禁じていたmixiも、08年12月から年齢制限を18歳以上から15歳以上へと引き下げた結果、18歳未満は10年9月時点で84万人まで急増している。
「売り上げの遺失も含めれば、何十億円ではきかない」
18歳未満のユーザーはSNSの将来のためにも重要。自らの事業で被害者を出してしまうのは忍びないが、18歳未満を切り捨てるわけにもいかない。だから、犯罪者とのいたちごっこが続こうが、各社は徹底的に対策を講じるしかない。ただ、それができている自負があるSNSは、別のジレンマも抱きつつある。DeNAの南場智子社長は、こう語る。
「私たちはとにかく健全性を維持して、青少年を守るということを徹底的にやっている。SNSまで出会い系にされて、全部免許証やら住民票やらを確認しないと使えないという、世界で日本だけがとんでもない状態になるのを避けるためにも、経費を年間7億円くらいかけて、やっているわけですよね。業界を救いたい、ユーザーを救いたいという気持ちで。売り上げの遺失も含めれば、何十億円ではきかないかもしれない」
そして、「我々から件数は言えないんですけれど、この前、社員が警察から説明を受けたとき、当社は『月間のアクセス数が急増しているにもかかわらず、DeNAさんはよくやっていますね』と、努力を認めていただいた」と続け、奥歯に衣を着せる。
一方、ミクシィの幹部も、こう吐露する。「報道に偏りがあるかなと思う。明らかにミクシィの被害が増えている見せ方をされて、イメージダウンやユーザーに対する悪影響を懸念している。非出会い系サイトを一くくりにするのが、本当に正しい見せ方なのか……」。両社の矛先は、残りの1社に向かう。
非出会い系サイトの被害児童数トップはグリーの171人
10年上半期、GREEに関係した被害児童数は、非出会い系サイト全体の29%にあたる171件。グリーの関係者は、そう警察から伝えられたという。出会い系サイト全体の被害児童数を30人上回る数字で、これが非出会い系サイトの増分を牽引している格好だ。
もちろん、グリーが手をこまぬいているわけではないし、ユーザー数が肥大化しているだけに、絶対数が増えてしまうのはある程度仕方がないという言い分もある。モバゲー、mixiも数十人単位の被害児童を出しており、決して小さくはない。だが、それぞれ期末時点での会員数あたりの被害児童数を半期ごとに追ってみると、その差は歴然としている。
モバゲーはゲームを軸としたバーチャルな関係に特化しており、現実世界の人間関係とゲームのバーチャルな関係、両方の構築を目指すGREEとは事情が異なる部分もある。また、mixiの被害児童数はGREEより少ないが、サイトにいる 18歳未満の数も少ない。18歳未満のうち被害に遭う比率は、GREEと大差ない。だが、モバゲー、mixiともに実数を徐々に下げ、GREEだけが増やしているのは事実だ。
この件についてグリーにいくつかの質問を投げたが、記事掲載時点まで回答は得られなかった。ある業界関係者は言う。
「ミニメールの監視のレベルが、グリーと他社の差となっているのではないか。例えばグリーのミニメールでは、090を『わらわ』と言い換えるなど、電話番号を数字に対応するかな文字を使って示す伝統的な隠語を送ることができる。同様に、『AどっとBどっと0123のキノコにメールちょうだい』といった、NTTドコモのメールアドレスを指す隠語も通じる。両方ともモバゲーでは、システムがブロックし、18歳未満に届かない」
「反SNS」や「反EMA」の機運高まるか
グリーは警察からの要請もあって、10年7月、「日記、コミュニティなどでの投稿に加えて、メールの内容についてもサイトパトロールの対象範囲とし、違反行為の取り締まりを強化する」と発表。3カ月後の10月にも、「面識のない異性との出会いなどを目的とした利用・投稿への監視を強化」「個人情報を含む投稿やメールの送受信に対するペナルティ水準の引き上げ」を実施すると発表し、矢継ぎ早に対策を打ち出している。
まさに今、グリーはこうした作業を実施している最中で、いずれ、前述のような隠語にも対応すると見られる。だが、警察庁が半期ごとに公表している被害児童数は、検挙時点の数字。出会いから、会って違法行為をし、検挙されるまでは時間差がある。
「対策の効果が数字となって現れるまでには、少なくとも半年以上はかかる。モバゲーやmixiも、18歳未満のユーザーが増えているだけに、大きく被害児童数を減らすのは難しい。10年下半期の非出会い系サイトの被害児童数は、間違いなく上半期より増えるだろう」
前出の関係者がこう指摘するように、11年2月には新聞各紙にまた、「非出会い系サイト」「SNS」「犯罪被害の児童」「急増」といった見出しが躍る可能性は高い。10年、非出会い系に関係した被害児童数は過去最悪の水準に達するだろう。連れて、「反SNS」や「反EMA」の機運が高まる可能性もある。
「出会い狩り」に憤るユーザー
11月30日、東京都議会に「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」の議案が提出された。原則適用となっている携帯フィルタリングを容易に解除できないよう、手続きを厳格化する内容も盛り込まれている。
この議案をまとめた東京都青少年問題協議会(会長:石原慎太郎東京都知事)は答申で、EMAが認定した健全サイトでも被害が多発していることを指摘。携帯電話事業者には「EMAのような第三者機関にとらわれず、コミュニティー機能を有したサイトはフィルタリングで遮断することを基本とするよう要請していく」としている。
日増しに強まるSNSへの圧力。ただし、業界も巻き込んだ「出会い狩り」の風潮に疑問を呈する利用者がいることも、忘れてはならない。
09年3月、ある「事件」がネット上を騒がせた。mixiに約300あった出会い関連のコミュニティーが、すべて忽然(こつぜん)と姿を消したのだ。
ミクシィはその3カ月前の08年12月、改正出会い系サイト規制法の施行に合わせ、「面識のない異性との性交、わいせつな行為、出会い等を主な目的として利用する行為」という項目を利用規約の禁止事項に加えたばかり。だが09年に入ってからも、出会い関連のコミュニティーなどに、異性との交際を求める書き込みが多数、残っていた。ミクシィは「管理者に警告のうえ、規約に従って削除した」とする。
ただ、警視庁が「出会い系サイトと同様の書き込みがある」として、大手SNSに異例の削除要請をした時期とも重なる。「放置すれば出会い系サイトと見なし、規制法の対象とする」。そんな暗黙のメッセージと取ったのか、いずれにせよ大人の健全な出会いを求めるコミュニティーが次々とネット上から消えた。
mixiで削除されたコミュニティーのなかには数万におよぶ書き込みがあった人気コミュニティーもあり、「やりすぎ」「出会いがないコミュニティーって意味があるのか」「削除の基準が判然としない」といった声が噴出したという顛末だ。
フェイスブックやツイッターには、出会いの機能も
「mixi大量削除のとき、18歳以上しか使わない前提で、業として出会いを仲介しているわけではないコミュを片っ端からつぶす姿勢はいかがなものかと思った。孤独な人こそ出会いや関係が欲しくてカルトとかマルチにはまる傾向にある。出会いを抑止しては、逆に犯罪や社会不安、反社会的活動を増さないか、と」
ネット上の規制や、健全化の問題に詳しい楠正憲氏は、こう振り返る。マイクロソフトで技術標準部部長を務める傍ら、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」など、IT関連の法制化に関わる数多くの国の会合に属してきた楠氏は、こうも語る。
「国内SNSを厳しく取り締まれば、“監視社会”を窮屈に感じるユーザーが自由を求めて海外のSNSへと移動してしまうかもしれない。国内に拠点を置かない事業者であれば、国内法は適用されず、犯罪捜査がかえって難しくなる懸念もある」
実際、5億人以上の会員を抱える世界最大のSNS、Facebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)は今のところ、運営会社としての日本法人を設けていない。フェイスブックはプロフィル欄で、恋愛対象を「男性、女性」、参加目的を「友情、デート、恋愛、情報交換」から選択し、示す機能を提供している。さらに「独身、交際中、婚約中、既婚、複雑な関係、離婚」などの項目から現在の状況を選び、知らせる機能もある。
一方、すでに国内だけで1000万人以上もの利用者がいるツイッターには、特定の文字列を付けて投稿するとコミュニティーのように活用できる「ハッシュタグ」という機能がある。見知らぬ者同士が仲良くなるための「#followmeJP」「#followdaibosyu」といったハッシュタグが頻繁に使われており、「出会い系コミュニティー」ととれないこともない。
犯罪と法規制、成長とユーザーの自由
元来、SNSは人のつながりを基軸としたサービス。既知の友人、知人に加えて、見知らぬ者同士でも気が合えば次々とつながっていき、大きなコミュニティーへと育った。言い換えれば、SNSはコミュニケーションツール。基本的には、道具を何に使うかは利用者任せであり、利用者が生み出すコンテンツによって発展を遂げた。そこには少なからず、出会いの要素も貢献した。
ある大手SNSの関係者は、「犯罪の撲滅、被害の根絶を願う気持ちは警察と同じだが、健全な出会いや、出会いのコミュニティーを求める成年のユーザーに不便を強いているとすれば残念。本音を言えば『大人の出会い系のコンテンツがあって何が悪い』と言いたい」と複雑な心境をのぞかせる。
ネット上の男女の出会いを描いた洋画「You Got a Mail」や邦画の「ハル」が人気を博したのは、今は昔の話。犯罪と法規制、そして成長とユーザーの自由。対立する2つの極の狭間でグローバルの競争に立ち向かわなければならない。そんな歯がゆい状況に、SNS各社は追い込まれている。
(電子報道部 井上理)
日本経済新聞 電子版 2010/12/8 7:00
http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A88889DE3EBE1E0E1E3E1E2E2E1E3E0E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E2EBE3E3E0E2E3E2E1E7E2E4
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