売春を摘発するだけでなく、女性が売春した背景を探って助言する活動を、警視庁保安課の「夜桜ポリス」が展開している。「生活費を稼ぐため」「仕送りのため」など動機はさまざまで、生活を立て直すのは難しく、再び夜の街に立つケースが後を絶たない。
老若男女が行き交う夜の東京・歌舞伎町。六月下旬、夜桜ポリスに所属する四十代の女性捜査員が現れ、売春目的で男性に声を掛ける女性がいないか、辺りを見回した。
サマーセーターにショートパンツという軽装で、街に溶け込んでいる。この捜査員は昨年八月、金髪にミニスカート姿で客待ちしていた女性(22)を売春防止法違反容疑で逮捕したことがある。
女性には身寄りがなく、服役中の暴力団組員の夫に代わり生計を立てるため、約一年前から街角で売春をしていた。身を寄せていた夫の仲間からは「稼ぎが悪い」と、繰り返し暴力を受けていた。
留置時の健康診断で重度の糖尿病と判明。捜査員は「売春しなくても、生活保護で自立できる」と勧め、罰金刑で釈放後、新宿区役所の担当課を紹介して生活保護の受給を決め、都内の一時避難所に入所させた。
しかし、規則正しい生活になじめない女性は「居場所がない。仲間がいる歌舞伎町に戻りたい」と何度も連絡してきた。「売春婦に戻ってはいけない」と根気強く説得を続け、約一カ月後、レストランのアルバイト店員に就けた。
保安課によると、都内で昨年、売春容疑で逮捕された女性百三十人のうち、日本人は約七割の九十三人。十年前は六十八人中三人だった。年齢層は十~七十代と幅広く、約半数が過去にも売春で摘発されていた。再犯者を減らすことも、夜桜ポリスの課題だ。
今年四月十三日に売春防止法違反容疑で逮捕された少女(19)は東北地方の実家を飛び出し、歌舞伎町で男数人と一回一万円で売春していた。動機を聞くと、少女は「寝泊まりする場所がなかった」と話したという。
捜査員は「売春する女性は身寄りがなく、家庭に居場所がない人が多い」と指摘。警察による長期支援は難しいとして再犯を減らすため、公的な更生施設による支援の充実を求めている。「薬物常習者のように入所者が互いに努力して自立する、半強制的なプログラムを備えた更生施設が必要では」と話した。
<夜桜ポリス> 繁華街で男性客を誘い売春する女性の摘発と助言、自立支援を狙い昨年12月、警視庁保安課の女性捜査員をメンバーに発足。女性と子どもへの犯罪を取り締まる同庁の「さくらポリス」にちなんで名付けた。風俗店のようなノルマがなく、客を選べるためか、都内では2004年ごろから街頭に立ち、売春する日本人女性の割合が増加。多くが暴力団に仲介料や1日3000円程度の場所代を支払っているという。
2011年7月8日 東京新聞夕刊 (山内悠記子)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011070802000188.html